ところで、本作はオゾンと共に仕事をしてきた脚本家、故エマニュエル・ベルンエイムの体験を描いた著作が原作。映画化にあたって、オゾンは彼女の家族や親族などに「かなりリサーチして」脚本に仕上げた。映画は「死」がテーマでありながら暗い物語ではなく、ユーモアもちりばめられている。

「この映画はいのちの側で作りたいと思っていました。死について話していますが、エマニュエルの父アンドレは、いのちを愛しているからこそ死にたいと思う人。それが彼のキャラクターのパラドックスなのですが……。人生も同じような、やはり逆説的なところがあると思うんです。私たちが過ごす日々の中には、すごく悲劇的なこともあればもっとライトなこともある。それが混ざり合っています。この映画も死を日常生活と同じように(生の一部に)したかったので、ユーモアと悲劇が混ざり合っているわけなんです。それに、アンドレ自体にとてもユーモアがあります。自分に起こっていることなのに、ある意味、距離感を持って見ているような……。そういう複雑な人物なので、娘のエマニュエルにとっては一層難しい父親なのですが(笑)」

 フランスでは本作で描かれているような安楽死、自殺幇助による最期を希望してスイスへ赴く人が少なくないと聞く。オゾン監督はどう考えているのだろうか。

「私は(死ぬことに)選択の自由というものが入ってきたと思うのです。(安楽死について)フランス社会ではすごく大きな議論がありますが、アンケートを取ると80%の人が安楽死に賛成すると言っています。ただ、やはりフランスは古い社会、カトリックの概念が非常に強いので、実際には難しい。医者に話を聞いてみると、どんな難病の人でも安楽死を選ぶ人は、そんなに多数ではないそうです。この映画のアンドレのようにすごく性格が強くて、安楽死を選ぶ人は実は少数なのです。

 安楽死についてはもちろん医者や家族と話し合うことが最低条件として必要ですが、私は誰もが自分の人生の最期をどうするか選ぶ権利があるべきだと思います。スイスやベルギーではきちんと法でその枠組みができているのですから、フランスもそのようになるべきだと思いますね」

(聞き手/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2023年2月10日号

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