現に海外の再生医療では、ES細胞や体性幹細胞(体内に存在し組織や臓器を維持する重要な細胞)による治療が主流となっている。海外でiPS細胞の研究が日本ほどおこなわれていない理由は、そうしたところにあるようだ。

 実は、岡野医師もiPS細胞が登場する前まで、ES細胞による研究を長年おこなっていた。

「アメリカでは、他人由来のiPS細胞もES細胞も、ほぼ同等に扱われています。でも日本では、ES細胞は胚盤胞という生命の萌芽を破壊してつくるので生命倫理的に問題があり、十分な議論をすれば進めていいとされました。2014年ごろから『禁じるものではない』という方向になり、19年には国立成育医療研究センターがES細胞由来の肝細胞を移植する治験をおこないました。私自身は、ES細胞はHLA型を合わせてつくるむずかしさや、他人の胚盤胞からつくるため拒絶反応が起きる心配もあり、基礎研究でES細胞を使うことはあっても臨床応用ではすべてiPS細胞に切り替えていて、iPS細胞に可能性を感じています」(同)

 埼玉医科大学総合医療センターの客員教授で、『未来の医療年表』(講談社現代新書)や『Die革命』(大和書房)などの著書で医療情報を発信している奥真也医師は、こうした国内外の状況を見て意見を述べる。

「医学関係者の間では、ES細胞とiPS細胞のどちらに軍配が上がるかという議論がされてきました。海外ではES細胞も含めて再生医療が研究され、iPS細胞だけに可能性を感じている研究者は少ないと思います」

 アメリカでは、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)など、一つの大学だけで日本全体の研究予算規模を集められる。ベンチャー企業も複数あり、日本を追い上げている状況だ。

 奥医師は、iPS細胞の臨床研究に有効性を感じつつも、冷静な視点を持つ。

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