ぞんざいな扱いをうければ相手も黙ってはいない。愛人が妻に自分の存在をにおわせて不倫が発覚するパターンは、王道だ。妻も、愛人と仲良くなって夫の弱みを握るなど、賢くなった。
精神科医で『「不倫」という病』の近著もある片田珠美さんは、人間の成功体験は、「もろ刃の剣」だと述べる。
「修羅場をくぐり、熾烈な競争に勝ち抜いてきた成功者にありがちな思考ですが、危ない橋や修羅場も『自分ならば、切り抜けられる』と過信しがちなのです」
医師として多くの事例を見てきた片田さんは、彼らの共通項として、(1)特権意識(2)自らの能力への過信(3)脱抑制状態の3点を指摘する。
ただし、(3)の「脱抑制状態」は注意が必要だ。
躁うつ病(双極性障害)、あるいはアルコールやストレスなど原因はさまざまだが、「病気」が原因で、自らの衝動が抑えられない状態となっている場合もある。
たとえばピック病(前頭側頭型認知症)と呼ばれるタイプの認知症は、記憶障害が目立たないため、はた目には、健康な高齢者として映る。
「しかし、すぐにイライラして怒鳴るなど、いわゆる“キレる老人”にありがちな言動は見過ごされがちです。実は、MRIで精密検査を行うと、衝動のコントロールをつかさどる脳の前頭葉の萎縮が確認されるケースは少なくありません。症状が進めば、攻撃衝動や性衝動の抑制が利かず、暴力事件やわいせつ事件を起こしてしまうこともあります」
事件とは無縁に思える人が、罪を犯すのはなぜか。前出の碓井教授によれば、「犯罪機会論」という考え方がある。
「罪を犯すに至る動機が存在しターゲットとなる相手を見つけ、実行に移す機会に出あう。この原因となる三つの条件がたまたま重なった時に、犯罪が発生してしまう」
成功体験を積み上げた人間ほどゴーマンな考えに陥りやすい。「自分ならば切り抜けられる」と思わないほうが賢明だ。(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2021年3月12日号