「渡辺さんは歴史家だから文字で勝負する人。文字に残さないと自分たちの歴史的な邂逅が何もなかったことになると思われたのではないでしょうか。2人が共に歩まなかったら石牟礼文学も今とは違う形になっていたでしょう」

 2人にはそれぞれ配偶者がおり、その存在が通奏低音のように感じられる。石牟礼は夫を、渡辺は妻を愛していた。それでいてなお2人の魂は引きつけあってやまない。その関係は本では知られていたが「暗黙のタブー」として語られることはなかった。「怒られたら泣いちゃうような可愛らしい道子さんを、渡辺さんは心から好きでした」という米本さんもまた、石牟礼道子に引かれ続けている。今後も別の形で彼女を書いていきたいと話してくれた。(ライター・千葉望)

■丸善丸の内本店の高頭佐和子さんオススメの一冊

『何とかならない時代の幸福論』は、コロナ禍の問題点を考えるためのヒントにもなる一冊。丸善丸の内本店の高頭佐和子さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 この1年間、コロナウイルスに振り回されて浮き彫りになった問題は多い。イギリスに長く在住し保育士として働いた経験のあるブレイディみかこ氏と、演出家でありロンドンに留学経験もある鴻上尚史氏の対話をまとめた本書には、それを考えるための重要なヒントが詰め込まれている。

 日本を覆う閉塞(へいそく)感の本質と、イギリスの多様性に対する取り組みが、2人の実体験をふんだんに交えながら親しみやすい言葉で語られる。「世間」と「社会」の違いや、シンパシーとは違うエンパシーという能力についての対話は新鮮で、硬直しそうな心を柔らかくし、起きた出来事を冷静に分析するための新しいものさしを得たような気持ちだ。

 何とかならない時代をどうにかするために、まず変わるべきなのは自分自身なのだと思う。大切なことを気がつかせてくれた貴重な一冊だ。

AERA 2021年3月8日号

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