佐々:その時の反応はどうだったんですか?
三浦:「えーっ? マジですか?」って感じです。
佐々:やっぱりそうですよね(笑)。
三浦:僕は男性だし、身内でもないし。でも、真剣に向き合って「出産の瞬間は恥ずかしいと思うのでカメラは向けませんけど、生まれた15秒後ぐらいの写真を撮りたいんです」と正直に申し出たんです。相手の女性は「えーっ? マジですか?」と驚いていたけれど、その時、周りには女性の実母や津波で亡くなった新郎の母親なんかもいて、みんなが「三浦さんが撮りたいって言っているんだから、あんた、撮らせてあげなさいよ」って言ってくれたんです。もう、取材を通じてみんなが家族みたいになってしまっているので。すると女性も「わかりました……。でも一つだけお願いがあります。どうか綺麗に撮ってください」と。
佐々:一生残りますものね。記憶として頭に残っているものが、実は写真の中の光景だったということもあります。取材する側としても、「よし、いい画を撮ろう」といろいろ構想を練るところでしょう。
三浦:やっぱり取材で聞いた話は、どうしても思い出だからみんな美しくなっちゃうんですよね。でもリアルは違う。そこがノンフィクションの凄みです。実際に分娩室の前にいると、やっぱり想定していなかったことが次々と起こる。お母さんが「アーッ、ウーッ」と痛がっている声まではもちろん想像できるんですけど、看護師さんが「静かにしなさいっ!」とか「あんた、そんなんで母親になるつもりなの!」とかすごく怖い声で怒鳴っているんですよ。その声を聞いて女性の実母と亡くなった新郎の母親が「結構、看護師さん怖いね」「私の時より怖いわ」とか言ってクスクス笑い合っている。生まれた瞬間、赤ちゃんの泣き声が産院に響き渡ったのですが、2人のおばあちゃんは僕に向かって「えっ? 産まれたの? 産まれたの?」って聞くんですよ。わかるわけないじゃないですか、僕は横で一緒に座っているんだし、産んだこともないし。