安倍政権では、長谷川氏や政務秘書官兼補佐官を務めた今井尚哉氏らが、この役割をうまく果たした。お陰で、成果を上げられなかった日本人拉致問題や北方領土問題などで批判を浴びることは少なかった。

 菅政権にこうした人物はいない。総務省の接待疑惑でも、「モリカケ問題を教訓に、疑惑をすぐに吐き出すことで早期決着を目指した」(与党幹部)はずが、結果的に対応が後手に回り、山田氏も官邸を去った。

 では、小野広報官にはどんな役割が期待されているのだろうか。小野氏は内閣副広報官や東京五輪・パラリンピック組織委員会のスポークスパーソンを務めてきた。加藤勝信官房長官は記者会見で「経験を生かし、内閣の重要政策を国民にわかりやすく伝える役割を期待している」と述べた。

 小野氏の先輩にあたる外務省関係者は「霞が関はまだまだ男社会。生き残るため、強さを表に出す女性官僚は多いが、小野さんは正反対。激高した姿を見たことがない。素朴で堅実な人」と語る。後輩の一人は「温厚で、年下にも丁寧に気を使ってくれる方」と話す。3月5日の首相会見でも、初めての司会役を無難にこなした。

 一方、小野氏は局長経験もなく、永田町と特に親しいと言われているわけでもない。関係者の一人は「外務省は利権と縁が薄い役所。最近では、森喜朗元首相の女性蔑視発言もあった」と述べ、小野氏の起用自体が、菅政権への批判を和らげる効果を期待したものだとの見方を示した。あまりに急な起用で、小野氏は外務省関係者に十分なあいさつもできなかったという。

 小野氏がどんな内閣広報官になるのか、菅政権には起用した責任がある。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2021年3月22日号

暮らしとモノ班 for promotion
育児や家事に忙しいママ・パパの味方!自宅がオフィスになるディスプレイAmazon売れ筋ランキング