「最高裁では通常5人の裁判官による小法廷で審理しますが、憲法判断を迫られるような重大案件は裁判官全員で審理します。つまり大法廷に回ったということは違憲判断を下す可能性があるということ。また、選択的夫婦別姓を求めた別の裁判では去年、広島高裁が『国会には真摯な議論が期待されている』との異例のコメントを付けています。『このまま国会が動かなければ、司法が踏み込むしかない』というメッセージにも見えます」

■「反対」世論は14%だけ

 社会全体でも賛同の声は大きくなっている。陳情アクションのまとめによると、20年12月までに全国178の自治体で制度の実現を求める意見書が可決された。特に昨年は60の自治体で可決されており、冒頭の文書はこれらの動きを受けて反対派が焦りを募らせた結果とみられる。

 世論調査も同様だ。棚村教授らの昨年の調査では、「自分は夫婦同姓がよい。ほかの夫婦は同姓でも別姓でも構わない」が35.9%、「自分は夫婦別姓が選べるとよい(以下同じ)」が34.7%と、あわせて7割が選択的夫婦別姓に賛成だった。一方、「自分は夫婦同姓がよい。ほかの夫婦も同姓であるべきだ」は14.4%にとどまった。

「法制審議会が答申した96年から25年がたち、社会の意識は大きく変わってきました。ひとりひとりが生きやすい社会や仕組みを求める声が大きくなっています」(棚村教授)

 自民党内でも議論の機運は高まりつつある。下村博文政調会長は10日の会見で、制度を巡る意見集約を目指すため、党内に検討ワーキングチームを新設すると表明した。

 反対派の主張は、「別姓によって家族の一体感が損なわれる」「子の姓の安定性がなくなる」などが主なものだ。だが、旧姓使用や事実婚で円満な家族も、同姓で離婚する夫婦も無数にいる。子の姓については、別姓を選択できる多くの国々では出生時に父母の協議で子の姓を定めるが、協議がまとまらないといった社会問題は生じていない。ほかの主張に対しても、既に反論は出尽くしている。

 選択的夫婦別姓は同性婚などにも通じる「幸せになる人を増やす」制度だ。青野さんはこう力を込める。

「人にはそれぞれ幸せの形がある。その多様な形が認められるようになれば、より幸せに生きられる社会になるはず。そのための第一歩です」

 反対の人にもこう伝えたい。

「制度が実現しても、幸せな人が増えるだけで、あなたに不利なことは何もありません」

(編集部・川口穣)

AERA 2021年3月22日号より抜粋