ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「徳光」について。
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何がなんだかさっぱり分からないものと言えば「時代劇」です。早い話、ちょんまげを結っている男性の見分けがつきません。それなりに学校で習うような歴史のあれこれは勉強したり暗記したりしてきたつもりですが、家康も源氏も平家も信長も秀吉も忠臣蔵も銭形平次も、私の中では「侍もしくは将軍」という括りでしか認識できていません。関ケ原や巌流島や川中島に至っては、なぜか「天城越え」や「箱根駅伝」と同じカテゴリーに分類されています。要するに私は極度の「歴史音痴」なのです。
ただ一方で、現代史に関しては、むしろ積極的に興味があります。明治以降の天皇家や、ヴィクトリア女王以降の英国王室などは、その家系図を日がな一日眺めていても飽きないほどです。考えるに、19世紀以前のものは想像やファンタジーの要素が強過ぎる故、現実味がないのかもしれません。
とは言え、時代劇すべてが苦手なわけではなく、登場人物一覧と相関図を片手に、一時停止と巻き戻しを繰り返しながらであれば、楽しめる作品もあることは知っています。例えば「大奥」です。2000年代、フジテレビの連ドラとして放送されていた当時から好きでしたが、リアルタイムでは半分も理解できていなかったため、オンデマンドやサブスク視聴が可能となった今、人物や史実をスマホで確認しつつ、ようやくその内容を咀嚼できている次第です。
2004年版では西島秀俊さんが徳川家光を演じています。家光は徳川第三代将軍で、歴代の徳川将軍たちの中でも家康の次ぐらいに有名なのではないでしょうか。私も子供の頃から、この徳川家光という名前にはひと方ならぬ強い印象を抱いています。なぜなら私の苗字は「徳光」だからです。
私の先祖が江戸時代にどこで何をしていたのか知りませんが、いわゆる「○○家」と苗字が付くような高い身分ではなかったことは確かです。ちなみに平民を含めすべての国民に苗字を持つことが義務化されたのは明治以降。しかし、江戸時代から私的に苗字を持つ平民もいたらしく、その慣習が広く浸透したのがちょうど家光が将軍だった1600年代前半なのだとか。