
完全犯罪が崩れたきっかけは「砂」と「検索履歴」だった。
和歌山県白浜町で2017年7月、水難事故を装い妻、志帆さん(当時28)を殺害したとして殺人罪に問われた野田孝史被告(32)=大阪市=の裁判員裁判で和歌山地裁は23日、懲役19年(求刑懲役20年)の判決を言い渡した。
和歌山地裁はこう断罪した。
「他殺と合理的に考えられる。殺人事件」
「被告人以外に犯行が行えるものはいなかった、被告人が犯人である」
野田被告は「僕は志帆ちゃんを殺していません」と一貫して無罪を訴え、事故死か体調不良で溺水死したと訴えた。
一方、検察側は溺水死は殺人であると主張した。
「志帆さんの胃の中に大量の砂が入っていた。病気や事故では胃の中に砂が入ることはない」
「志帆さんには身体を押さえつけられた傷が残っていた」
お互いの主張が真っ向からぶつかった法廷になった。
野田被告が逮捕されたのは、事件から半年以上も経過した2018年4月。
裁判で野田被告は被告人質問ですらも、ずっと黙秘を通し、検察側と徹底的に争った。現場の海水浴場で、犯行の目撃者はおらず、決定的な証拠はなかったのだ。
野田被告の「怪しい行動」はあったものの、自供も得られていないことから。野田被告側は「疑わしきは罰せず、被告人の利益に」との戦略だった。
それをまず、突き崩したのは検察が主張した「砂」だった。志帆さんの救命や解剖にあたった医師が重要証言をしたのだ。
「胃にチューブを通して吸引した時に、2、3秒間、砂が流れた」
「7月19日のカルテにも、砂水のようなものが〈体内に)とどまっていると記載」
「少なくとも、36・5gの砂が志帆さんの胃の中にはあった」
そして溺水死で胃の中に相当量の砂が入る状況になるのは、浅瀬で意識がある人の顔面が海底近くで一定時間、押さえつけられる場合であると断定した。
しかし、解剖後、砂が廃棄されていたために野田被告側は「砂と見間違えた可能性がある」
「砂が志帆さんの胃の中にあったとしても、体調不良などで不慮の事故」と反論していた。