都内の桜が満開だった3月下旬、テレビニュースでは酒を飲んで騒ぐ花見客の姿が連日のように報道された。しかし、実際に花見の名所を歩き回って出会えたのは、それぞれの「花見」をひっそりと楽しむ人たちばかり。そんな彼らが桜の下で語ってくれた人生模様とは──。
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花見といえば上野公園だろう。そう考え繰り出したのは3月30日。満開の桜は6割ほど、多くの桜は風に揺られて花びらを散らしている。それでも上野公園には「歩き花見」の人があふれていた。ドリンク片手に歩きながら桜を眺め、満開の桜の前で立ち止まってスマホやカメラで記念撮影というもの。酒を飲んでいる人はほぼゼロ。
やっと発見できたのは、桜の下でビール片手に立ち話しているサラリーマン風の男性5人組。「花見ですか?」と話しかけると、「会社終わりで、これから食事に行くところ。どうせなら回り道して歩き花見しようぜってことになったんです。コロナ中だし、本気の花見はお預けです」。
彼らは上野近くのIT企業の仕事仲間。リモートワークが続いていたが、この日は月1回の全体ミーティングで出社した。その勢いで桜を眺めに来たという。「飲み会も久しぶりですよ」と嬉しそうに言って、去っていった。
その後、清水観音堂の下のベンチに座り缶チューハイを飲む20代女子2人組を発見したが、「居酒屋に行ったら思いのほか混んでいて、怖くなってここに来た。でも歩いている人の視線が怖くて……桜の写真は撮ったし、これ飲んだら帰ります」という。お酒を飲むにも勇気がいるようだ。
その後も公園内を延々と歩き回ったが、宴会客は見つからない。上野では花見ルールが守られているようだと感じ始めていたとき──いたぞ、発見! 公園隅の桜の下のコンクリートの段差に座っているマスク姿の3人組が、間違いなくビールのロング缶を飲んでいる。突撃しよう!
「週刊朝日で花見客の取材をしてるんだけど……」と話しかけると、「やべぇ、見つかった」と顔を見合わせて大笑い。彼らは台東区に住む中学・高校で同級生だった仲良し3人組。進路はそれぞれだが、毎年集まって上野公園で花見をするという。