女の子にとって、どんな父親であろうとも、父親であることに変わりなく、家庭は自分の居場所だ。父親の機嫌が良いものでありますように、父親がベッドに入ってきませんようにと祈るように思う「加害していないときの父親が好き」という発言は、自然だ。

 2017年以降、加害者寄りの視点からみた「被害者とはこうあるべきだ」という考え方こそが「レイプ神話」であることを、国際的な#MeTooの潮流が明らかにしてきた。加害者視点からすれば矛盾するような行為であっても、性被害者にとっては合理的な振る舞いなのだと、性被害者が声を出して語ってきた。加害者視点で考える「本当の被害者はそんな振る舞いはしない」とされる多くが、被害者だからこその自然な振る舞いであることが、理解されてきた。性被害は、だから被害者中心主義の語りで問われなおさなければいけないというのが、今私たちが立っている場所のはずだった。それをこの判決は、あっという間に、時間の針を戻してしまった。4月5日、検察は控訴せず、父親の無罪は確定した。

 刑法の無罪判決は重たい。そのことは重々承知で、この「無罪」を引き出した裁判官の考える「自然」があまりにも、被害者からみるリアルからは不自然であることは何度でも言う必要があるのだと思う。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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