写真はイメージです(Getty Images)
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北原みのりさん
北原みのりさん

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、とある事件の無罪判決について。

【写真】性被害者は笑わない?偏見を明らかにした女性ジャーナリスト

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 またひどい判決が出てしまった。

 3月22日、12歳(事件当時)の実子への強制わいせつと強制性交等罪に問われた男性に対し、大津地裁は娘の証言の信用性に疑問があるとして無罪判決を言い渡した。

 検察によれば、性被害は女の子が小学6年生のころからはじまったという。約1年半後、中学生になった女の子は担任の教師に性被害を初めて告発し、その翌日に子ども家庭相談センターに保護された。最初は、成績が悪いと父親から体罰をうけるため「家に帰りたくない」と語りだし、その後、父親が酔っ払ってベッドに入ってくる、怖くて眠れないと訴えた。

 裁判官は、女の子の証言には信用性がないとして、父親を無罪にした。女の子は帰りたくなくてとっさにうそをついたと考えたのだ。一つのうそをついたことで事がどんどん大きくなり、引き返せなくなったのだと考えるのは自然だと述べた。

 有罪判決はもちろん、慎重に出すべきだ。さまざまな証拠や証言をもとに判決を導き出すのに、丁寧な推論と重たいほどの慎重さが必要なことは前提の上で、この裁判官が結論を導き出す過程にはいくつもの問題があると私は思う。

 裁判官は女の子の証言が「不自然」であると導いた理由をいくつも並べている。例えば女の子は、最初の性被害があった日時を覚えていなかった。あれはクリスマスの前のことだったというような答えをしている。それをもって裁判官は、初めての性被害という強い印象を残す日なのに、日を覚えていないのは不自然と考えた。

 例えばこの女の子は、教師に被害を訴えたとき、性被害の話を最初にしなかった。体罰を受けていることを泣きながら最初に語り、それからしばらくして性被害の話をした。裁判官は、性被害で追い詰められているならば最初に性被害を語るのが自然なのに、体罰を最初に相談したのは不自然だと考えた。

 例えばこの女の子は、父親が身体の上にのり激しく動いたという告白を、最初の被害の訴えからずっと後にしている。裁判官はこれを不自然だと考える。なぜ強く印象に残るはずのことを最初に話さなかったのか、と。

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