植朗子
突然の母の鬼化、母による「子殺し」、そして玄弥をかばうために行われた、兄による「母殺し」。幼い玄弥には、これらの状況を把握することも飲み込むこともできなかった。玄弥は、兄への甘えもあったのだろう。自身の混乱と悲しみを、ぐちゃぐちゃの感情のままに、実弥にぶつけてしまった。
＜何でだよ！！何でだよ！！ 何で母ちゃんを殺したんだよ！！うわあああ 人殺し！！人殺しーーーーーっ！！＞（不死川玄弥／13巻・第115話「柱に」）
事件の直後、実弥は弟・玄弥とともに暮らすことをやめ、孤独な「鬼狩り」を始める。実弥が自暴自棄になった側面は否めないが、彼が「鬼狩り」になった最大の理由は「唯一生き残った弟を、鬼から守るため」だった。母を鬼にした者への「あだ討ち」という要素もあったが、実弥にとっては「鬼を滅殺することによって、弟を守る」ことが何よりも大切だった。
実弥は「鬼狩り」を行う自分から、弟を遠ざけたいと考える。しかし、事情を話せば、優しい玄弥はついてきてしまう。そのため、実弥は玄弥に詳細を話さず、ただただ冷たく突き放したのだった。
兄が家を出て行った後、玄弥は自分の言葉を激しく後悔した。傷つけてしまった兄に謝罪するため、守ってくれた兄に感謝を伝えるため、玄弥は鬼殺隊への入隊を目指すことになる。
■才能あふれる兄、実力不足の弟
剣技、スピード、身体能力、戦闘技術、スタミナのいずれをとっても、才能が抜きんでている兄の実弥に対して、入隊時の玄弥は、体格ひとつとっても、見劣りがした。しかし、この数々の欠点を、不死川玄弥はすさまじい努力で、短期間のうちに、ひとつひとつ克服していく。
「呼吸」すら使えないことに焦った玄弥は「最大の禁忌」に手を染めることを決意する。――「鬼喰い」。「鬼喰い」によって、玄弥の戦闘能力は格段に向上した。小さかった体は、急激に大きくなり、鬼にしか使えないはずの特殊能力「血鬼術」（けっきじゅつ）を使えるようになる。色変わりはしていないものの、日輪刀を持ち、新たに拳銃型の武具を使いこなす。呼吸は使えなくとも、鬼との戦闘の中で、大きな戦績をあげていくことになる。
石井志昂
ラリー遠田
沖昌之
