「パタパタ、パタパタ」。薄衣の袖を振って遊ぶ子どものように泳ぐクリオネ。巷では「流氷の天使」「流氷の妖精」とも呼ばれる。「流氷の」とつくくらいだから、寒いところにしかいない希少な生き物だろう――と思いきや、東京や大阪など都市部のスーパーマーケットに瓶詰で売られている様子が、近ごろSNSにアップされている。しかも、鮮魚コーナーに「観賞用」として並んでいるのだ。クリオネはいったいどこから来たのか。その謎に迫った。
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「うちの鮮魚担当が、こんなもの卸から仕入れてきたもんだから、バカだなぁ、と思っていたんですよ。食べられもしないんですよ。でもね、ちょっと様子を見ていたんです。そしたら、売れていくので驚きましたよ。おばあちゃんが孫に見せたいといって買っていくんです。女子中高生が写真だけ撮りに来たりもしていましたね」
クリオネの意外な反響に顔をほころばせるのは、東京・多摩地区でスーパーマーケットを展開する「食品の店おおた」(東京都日野市)の川島幹雄社長。昨年12月、系列店ではじめてクリオネを置いたところ、客が物珍しさに手に取り始めた。
「1瓶に通常3匹入っていて、うちでは1480円(税抜)。鮭を何匹買えるんだと思うけど、買ってくれる人がいるんです。きっと癒しを求めているんじゃないでしょうか」(川島社長)
川島社長の話を頼りに卸元をたどると、都内近郊の卸会社に行き着いた。
「クリオネは北海道から仕入れています。珍しいものではなく、毎年流通していますよ」
担当者はこう話す。市場に来る仲卸業者が、都内の量販店やスーパーに卸しているという。この卸会社では例年12瓶入りの箱を2~6箱程度仕入れているというが、今年度は100箱ほど仕入れた。
「コロナで外に出る機会が減ったので、少しでも癒しになればいいなと思い、この冬は取り扱いを多くしました。子どもや女性に喜ばれていると思います」
クリオネは「1~3カ月ほど冷蔵庫の中で生きる」といい、売れ残って廃棄する必要がない点が店にとってはメリットだ。ただ、回転率はそれほどよくなさそうだ。