原発処理水の海洋放出決定について、中国の政府高官が「太平洋は日本の下水道ではない」と当たり前の批判をしたことに対し、「みんなの海じゃないのかね?」と言い返した麻生さんの言葉は、十分に、生きることを諦めさせられるような気持ちにさせるものだった。信頼できる情報ではなく、“国が安全といっているから安全なのだ”、という力業で、不安の声をふさがれることに、私も鈍くなりつつあるのだと思った。中国人ウェーターの「もう、戻れない」の言葉に、気づかされた。「生きることを無理やり諦めさせられている」。壇蜜さんの言葉に、中国人ウェーターの深刻な横顔が浮かんだ。
テレビの中ではウイグル人収容所で人々が囚人として扱われている残酷さを訴えていた。でも、いったいこれはどこの国の話なのだろう。テレビ画面の中で「家族を帰して」と訴えるウイグル人の怒りの声は、日本の法務省入国管理局(入管)収容所の前で泣き崩れる人々のそれとまったく同じだった。
外国人支援団体「編む夢企画」を主宰する織田朝日さんの『ある日の入管~外国人収容施設は“生き地獄”~』(扶桑社)を読んだ。織田さんが実際に入管収容所で見たものが、4コマ漫画で描かれている。
今年3月、名古屋入管に収容されていたスリランカ人の女性が死亡した。33歳だった。具合が悪いと訴えても点滴もしてもらえず、死亡の原因もいまだに明らかにされていない。2017年に英語教師になる夢をもって来日したが、経済的な困難を抱えビザが失効してしまう。昨年8月から入管に収容されていた。国会でもこの女性の死は取り上げられたが、氷山の一角であり、彼女の凄絶な苦しみの背後には、人権の一切を取り上げられた無数の声がある。
漫画の中には、収容所の医師が自ら大声を出し威嚇し「おい、この犯罪者!」と怒鳴りつけ、「日本人の税金をあなたたちに使うのはもったいない」などと、診察を拒否する姿が描かれている。あまりの対応のひどさに「反抗」すると、複数の職員で体をおさえつけられ、のどに親指で突くなどの暴行を受けた人もいる。職員に対し「反抗的」な態度をとったと言いがかりをつけられては、トイレがむき出しの狭い懲罰房に閉じ込められる。自殺を試みる人は決して少なくなく、いつ終わるとも分からない収容所生活に精神を病む人は後を絶たない。