織田さんが描く入管収容所の空気は、私の知る留置場ととても似ていた。それが日本社会の、多くの人には見えない現実なのだ。入管収容所は留置場よりもひどいところだ、と教えてくれたのは誰だったか。私はたった3日間の体験だったが、日本の留置場よりもひどい場所があるとしたら、そこは地獄だと断言できる。法を犯したのだから、ビザを失効させたのだから、そもそも不法入国なのだから……と入管収容所の問題はあまり大きな関心になりにくかったかもしれない。それでも、日本の入管はひどすぎる。
テレビではウイグル人が収容所で手首に手錠をかけられながら立たされている姿が映されている。残酷に見えるが、日本の収容所も似たようなものだろう。腰に縄をまかれて、家畜のように引っ張られて移動させられる。食事は粗末なもので、時に虫が入っているようなこともある(もちろん食用ではなく、衛生的に問題があるからだ)。
「生きることを無理やり諦めさせられているような、その判断を人にさせるというのは、今の時代にあっていいのかと思いました」
壇蜜さんの言葉が耳に残る。「今の時代」「今の日本」という言葉で信じたい理想が私たちにはある。だけれど、現実は私たちの理想を簡単に裏切るように、人の生活を、人生を脅かしている。日本はまだ、そんな国。人権などを語る資格のない残念な現実があるのだ。そのような現実を、私たちと同じ空の下に生きている人たちがいることを、そしてその人たちを助けようと日々奔走する織田さんのような存在を、これ以上私たちが鈍くなってしまう前に、知らなければいけないのだと思う。
いま、出入国管理法改正案の審議が衆院で行われている。難民申請を二回までと決め、それ以上した人は強制送還されるなど、入管で収容されている人の明日の命を考えていないものだ。この法案の改正が通ることで、また諦めを強いられる命がでてしまう。「いまの時代、あってはいけないこと」が、日本で起きている。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表