そんな潮目が着実に変わり出したのが2000年代以降。大リーグで頂点に立ったイチローさんを筆頭に、高橋尚子さん(マラソン)、杉山愛さん(テニス)、北島康介さん(競泳)、吉田沙保里さん(レスリング)、室伏広治さん(ハンマー投げ)、なでしこジャパン(サッカー)、高梨沙羅さん(スキージャンプ)といった人たちが、目まぐるしく世界を制覇していきました。中でも最もそれを実感したのが、2006年トリノ五輪で女子フィギュアスケートに初めて金メダルをもたらした荒川静香さん。あの伊藤みどりさんが唯一成し得なかった「五輪の金メダル」は、私にとって「世界の壁」の象徴そのものでした。荒川さんの歴史的快挙は、その後浅田真央さんや高橋大輔さんらが築く「フィギュア大国日本」、羽生結弦さんの「五輪2連覇」へと繋がっていきます。
テニスで全米準優勝にまで漕ぎ着けた錦織圭選手も忘れてはなりません。さらには2018年、大坂なおみさんによる全米OP初優勝は、幾度となく既(すんで)のところで打ち砕かれてきた日本人の願いと夢が結実した瞬間でした。
そして女子ゴルフ渋野日向子さん(全英女子OP優勝)に続き、此度の松山英樹さんのマスターズ優勝。まさかあれほど多くの中年男性たちが感涙にむせぶとは。戦後の日本社会を支えていたのは野球でもサッカーでもなくゴルフなのだと思い知らされました。女装したオカマにはいちばん縁遠いスポーツです……。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年4月30日号