この店も、客同士のトラブルにつながるため、こうした代表待ちによる「割り込み」を慎むよう、店外に貼り紙を掲示している。だが、女性店員は嘆く。
「店側から声をかけても『ルールを知りませんでした』と言われてしまうと、それ以上は強くお願いできません。あとは『家族ですから』と、ある意味で堂々とされたり……。逆に、他のお客様から、もっとちゃんと注意しろ、と叱られたこともたくさんあります。整理券を配るという方法も検討はしましたが、新型コロナで売り上げが厳しい状況で、そのために従業員を増やすことは難しいという判断になりました」
そもそも、こうした「割り込み」行為は法的に許されるのか。
ラーメンを週に最低1回は食べ続けて20年。「ラーメンソムリエ」を自認する弁護士法人アズバーズ代表の櫻井俊宏弁護士は、「私自身、『代表待ち』で前に入られてしまったことは数多くあります」と自身のラーメン人生を振り返りながら、こう解説する。
「一般的な行列への割り込みについては、軽犯罪法違反に問われる場合があります。ただし、その対象となるのは主に公共の場、例えば電車やバスに並ぶ列などの限定された場面に限られています。残念ながらラーメン店など飲食店の行列に割り込んでも、完全な割り込みか『代表待ち』かを問わず、軽犯罪法違反には当たりません」
櫻井弁護士が示した軽犯罪法の第1条13号を見ると、「公共の場所で、多数の人に対して乱暴な言動で迷惑をかけたり、威勢を示して公共の乗り物、演劇などの催し、割り当て物資の配給の列に割り込んだり、その列を乱すこと」を禁じている。
確かに、どんな割り込み方をしたかの問題以前に、飲食店が対象に入っていない。演劇は入っているのだが…。
さらに、櫻井弁護士は続ける。
「次に、民事上の不法行為が成立するかという点ですが、割り込みが違法な行為になるかどうかや、それによって何らかの損害が生じたと立証するのは難しいと考えます。また、もし仮に、割り込まれたことでラーメンが売り切れてしまい、せっかく並んだのに食べられなかったとします。そこで、精神的苦痛を受けたとして割り込んだ相手に損害賠償を求め、裁判所が違法な行為であるとして万が一、賠償を認めたとしても、賠償額は良くて1万円くらいではないでしょうか」