なのになぜ、緊急事態宣言の継続を検討しなかったのか。2度目の緊急事態宣言が解除されたのが3月21日。その4日後、福島県楢葉町と広野町にある「Jヴィレッジ」のグラウンドから聖火リレーがスタート。しかし、本来であれば記念すべきスタートを祝うセレモニーに菅義偉首相の姿はなかった。当日の首相動静によると、菅首相は参議院予算委員会に出席していた。
ある政府関係者は、2度目の緊急事態宣言解除の最大の目的は、日本で五輪・パラリンピックが開催できるという対外的アピールだったとこう証言する。
「聖火リレー開始のニュースは世界を駆け巡ります。その時に日本は緊急事態宣言下である、という事実は、五輪・パラリンピックの開催にマイナスにしかならない。何しろ、まだ国際オリンピック委員会(IOC)は、開会式を予定通りの2021年7月23日に行うとは断言していない。首相が現地に行かなかったのも、行けば必ず緊急事態宣言のこと、第4波のことを聞かれる。五輪のシンボルである聖火を前に、そのことに答える画(え)を全世界に配信されるのを、どうしても避けたかったのでは」
■選手団を東京に送るか
もし、五輪開催時、東京の病床使用率が50%を超えるなど「ステージ4」の状況で、200以上の国と地域から、総勢1万2千人。関係者を含めると5万人とも10万人とも言われる人びとを受け入れることが果たしてできるのか。
3月1日の衆院予算委員会。立憲民主党・辻元清美議員から「東京がステージ4になったら五輪はできるのか?」と問われた菅首相は「IOCや組織委員会、東京都と連携し、安心安全の大会を実現する」と述べた。
菅政権の最大の誤算は「ワクチン接種の遅れ」だ。そもそも、菅首相は今年1月の段階で「オリパラへの参加は、ワクチン接種を前提としない」と、IOCに伝えた。というのも、この時点では五輪・パラリンピック参加者はおろか、日本国民へのワクチン供給のメドが全く立っていなかったのだ。その後、ようやく2月17日から医療従事者、4月12日になって高齢者への接種が始まったが、16歳以上の全ての国民への接種終了のメドは全く立っていない。この事実がオリンピック開催に、今も暗い影を落とす。