2020年9月、記者会見で光免疫療法の薬事承認を発表する小林久隆医師(左)と楽天メディカル社会長・三木谷浩史氏(右)(写真/楽天提供)
2020年9月、記者会見で光免疫療法の薬事承認を発表する小林久隆医師(左)と楽天メディカル社会長・三木谷浩史氏(右)(写真/楽天提供)

 がん細胞に光を当てることで薬剤が反応し、がんを破壊する――2020年に日本で薬事承認・保険収載された「光免疫療法」。すでに一部のがんに対し国内で治療が始まっている。開発したのは、アメリカで研究を続け、関西医科大学が設置する研究所に22年4月に就任予定の小林久隆医師だ。小林医師には、「シンプルで、安く安全な治療」へのこだわりがあった。現在発売中の『手術数でわかる いい病院2021』で、小林医師に話を聞いた。

【写真】真剣な表情で語る三木谷氏

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■「がんだけを傷つけたい」臨床医時代の苦い思い出

「何千万円もかかる治療ではだめなんです。誰もが受けられるシンプルな治療を、早く提供したいと思っています」

 光免疫療法の開発者、小林久隆医師はこう強調する。「第5のがん治療法」の呼び声も高い光免疫療法。手術、抗がん剤、放射線、そして2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られる免疫療法に次ぐ、新しい治療法だ。

 これまでの治療は、がん以外の正常組織も傷つけてしまうリスクがあったり、高額な薬が必要になったりするなど、身体的・経済的な負担が課題になっていた。光免疫療法はこれらをクリアする、安全で安価な治療法とされる。

 特殊な薬剤を注射し、体外からがんに向けて近赤外線を当てることで薬剤のスイッチが「オン」になり、がん細胞を破壊する。

 冒頭、小林医師が「シンプルな治療」であることにこだわったのには理由がある。それは、臨床医としてがん患者と向き合っていた34年前にさかのぼる。

 1987年、26歳の小林医師は、京都大学医学部付属病院で放射線の専門医として勤めていた。放射線によるがん治療が、まだ主流ではなかった時代だ。

「食道がんの患者さんを治療したら、がんはよくなったけれど、食べ物が食道を通らなくなってしまったんです。そのことが鮮烈な印象として残っています」

 がん以外を傷つけず、がんだけを傷つける治療はできないか。そんな小林医師が当時取り組んでいたのが、体内のがん細胞だけを光らせる「イメージング」の研究だった。94年に小林医師が発表し、光免疫療法の原点ともなった博士論文を紹介しよう。

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原点の研究「あまり関心をもたれなかった」