元素には、つねに放射線を出し続ける放射性同位体という物質がある。これを特殊な抗体と結び付けて体内に投与し、がん細胞と結合させる。するとがん細胞が放射線を発するため、PET検査などでがんの画像を撮影し、診断することができる。

 ただ、放射性同位体つき抗体は血液の中を流れているだけで、放射線で正常細胞も傷つけてしまう。小林医師は、がん細胞と結合しなかった放射性同位体つき抗体を、尿を通じて早期に排出させることに成功した。

 さらに放射性同位体は、強い放射線を出すものに変えることで、がん細胞を攻撃する性質に変えることができる。将来、新しい治療につながる研究として論文が評価され、95年にNIH(米国立保健研究所)へ留学した。

「でも同僚からは、研究にあまり関心をもたれませんでした」

 放射性同位体は、抗体を注入して腫瘍に届くまで丸1日体内に留まる。排出されるとしても、体への負担はまだ大きかった。

 04年、静岡の学会で東京大・浦野泰照教授と出会う。化学変化を与えると発光する「蛍光物質」を制御し、光のスイッチをオン/オフさせる技術の研究者だ。

「以前から論文でこの研究の存在は知っていました。『この後に聞きたい講演がある』と言う浦野教授を連れ出し、がん細胞だけをきれいに光らせる仕組みをつくれないか、といくつかのアイデアを話しました」

 小林医師は放射性同位体に代わり、蛍光物質に着目したのだ。ここから共同研究が始まった。

■理想の物質を発見「世界を変える可能性がある」 

 07年、がん細胞にのみ込まれると蛍光物質が「オン」になり発光する技術を発表。08年には、細胞が死んだり、細胞から放出されたりするとオフにすることにも成功。そして09年、近赤外線を当てるとオンになり、がんの種類に応じた色で発光させることに成功した。

「自由に研究ができて、一緒にやっていて本当に面白かった」

 しかし小林医師の目的は、がん細胞を攻撃させることにあった。光を発するということは、エネルギーが出ているということ。スイッチがオンになると、性質が変わりがん細胞を攻撃する蛍光物質もあるのではないか。仮説を立て、実験を繰り返した。

 同年5月、それは見つかった。小林医師は発見時の様子を、「細胞がバタバタ死んでいった」と表現する。蛍光物資が光に反応し急激に変化する。すると細胞の膜に傷がついて水が入り込み、風船のように破裂していった。

「かなり異常なことでした。すごく殺傷効果が高い」

 光免疫療法に使われる物質「IR700」の発見だった。

 11年にこの成果を発表し、治験をおこなうための提携先を探し始めた。「これが世界を変える可能性があるなら、意思決定の早い企業のほうがいい」というNIHの知財担当者のアドバイスをもとに、医療ベンチャーのアスピリアン・セラピューティクス社と提携した。

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