俊夫さんは18年3月、改ざんに加担させられたことに苦しみ、自死した。「メモ魔」だったという俊夫さんが生前、記したとされたのがそのファイル。元上司は雅子さんに存在を認め、検察に提出したと話していた。
■黒塗り開示では無意味
昨年3月、雅子さんは国と当時の財務省理財局長・佐川宣寿氏を相手に起こした裁判の中で、ファイルの開示を求めてきた。だが国側は「裁判上、必要ない」などと主張し、存否すら明らかにしてこなかった。
潮目が変わったのは今年3月。雅子さんが国にファイルの提出を命じるよう大阪地裁に申し立てた非公開の進行協議で、地裁が5月6日までに書面で回答するよう促すと、国は対応を一転させた。これまでファイルの存否について言及を避けてきた国が、存在を認めたのはなぜか。先の松丸弁護士はこう見る。
「検察に提出したという元上司の証言もあり、存在そのものを否定した場合、より大きな問題になる。もはや隠し通せなかったのではないか」
今後の焦点は、ファイルの内容がどこまで明らかにされるかだ。開示範囲について国は書面で、ファイルには職員の個人情報などが含まれていて一部「黒塗り」にしたうえで開示するとしている。松丸弁護士は、
「黒塗りでは開示しても意味がない。二度と悲劇が生じないよう全部開示することが大事だ」
と指摘。雅子さんも言う。
「夫の残したものを全部明らかにしてほしいです」
書面が届いた日の夜、雅子さんは俊夫さんの遺影に、あなたが職場に残した「赤木ファイル」があると国が認めてくれたと報告したという。
「真実が明らかになるのはもう少し待ってねと伝えました。夫は、『ありがとう』って言ってくれたんじゃないかと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年5月17日号
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