高校を卒業したばかりの女性が街でモデルになりませんか、と声をかけられる。幼いころから雑誌で仕事をするのが夢だった。プロフィルの写真を撮りましょうと言われるが、その日は名刺だけもらって家に帰った。


 
 母に相談すると、もらった名刺に電話をかけてくれた。電話に出た男は、母親を叱りつけたという。「お母さん、そういうステージママみたいなことするお母さんが、一番、娘さんの夢をつぶすんですよ?! 分かってます!?」。勢いに気おされて、そういうものかと娘を翌日送り出してしまう。

 娘はその日、一人で事務所に行き、下着姿の写真を撮られる。おかしいと思いながらも、もうその時点で母親には何も言えなくなってしまっている。契約書をみると、AV出演もあると記されている。そんな話は聞いていないと言ってはみるが、「これは、モデル業界の慣例。全てのタレントが同じ契約をしている」などと当たり前のような顔をされてしまい、契約書にサインをしてしまう。

 すぐに「営業に行こう」と言われ連れていかれた事務所では、「アナルセックスはできるか?」「レズビアンセックスはできるか?」などの質問用紙を出される。全部に×をつけると「どういうつもり? AVを差別しているのか?」と逆切れされてしまい、本当に自分がやりたいことなのかどうかも判断ができないまま、逃れられない状況で出演がとんとんと決まっていってしまった。
 
 そういう女性の物語は決して珍しいものではなく、AV出演被害を受けた女性たちに共通する「よくある話」でもある。殴られたわけでもなく、強制的に連れていかれたわけでもなく、女性たちは外からみると自分の意思でサインし、自分の意思で撮影現場に向かっているように見える。実際、多くの女性たちは、「自分が決めたこと」と思っている。でも、どこからどこまでが自分の意思だったのか、どこからが自分の判断だったのか……もうとっくにわからなくなってしまっているのだ。

 感想をくれた女性と話しているうちに、捨てられたを「いいこに、してた?」と抱き上げたフィリピン人の女性たちの声を、私もいつかどこかで、聞いたような気がしてきた。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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