周辺の防犯カメラに犯人らしき映像はなく、凶器も見当たらない。茨城県警は当初、犯人は小林さん一家に恨みを持っている人物とみて、交友関係を中心に捜査した。だが、いくら調べても夫婦ともに目立ったトラブルは確認できず、捜査は長期化した。

 県警は交友関係の捜査と並行し、県外を含め過去に面識のない人を刃物で襲うなどした事件の洗い出しを進めた。

 その中で浮上したのが、冒頭の少女を切りつけた事件を起こした、埼玉県に住む岡庭容疑者だった。

 茨城県警から連絡を受けた埼玉県警は、茨城県警との合同捜査班を設けた。人に危害を及ぼすおそれがある商品を購入した形跡があるとして、埼玉県警は昨年11月19日、埼玉県三郷市の岡庭容疑者宅を殺人予備の疑いで家宅捜索した。

 捜索に先立ち、県警は岡庭容疑者に任意同行を求めた。午前6時ごろに始まった捜索では、危険物に備えて青や黄色の防護服に身を包み、ヘルメットと防毒マスクをかぶる捜査員の姿もあった。

 捜索の結果、硫黄やアルコール類など消防法上の危険物が見つかった。日付が変わったころ、岡庭容疑者は硫黄約44キロを貯蔵したとする三郷市火災予防条例違反容疑で逮捕された(起訴時の罪名は消防法違反)。

 ある捜査幹部は、

「普通はこの条例違反では逮捕しない」

 と異例の捜査だったことを認める。自宅の捜索は約1週間に及んだ。

「捜索をすべて終えていない中、その時点で適用できる容疑でやった」(前出の捜査幹部)

 次に捜査が動いたのは今年2月。茨城県警は、公記号偽造容疑で岡庭容疑者を逮捕した。聞き慣れない罪名だが、警察手帳につける記章を偽造したというものだ。

 この翌日には、さいたま地裁で消防法違反事件の初公判が予定されていたというタイミングだった。公判が始まれば、早期に判決が出て岡庭容疑者が釈放される可能性もあった。

 両県警は捜索で、複数の刃物のほか、岡庭容疑者が使っていたスマートフォンやパソコンなど約600点を押収した。

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