米国の株式市場では、事業の実態がない会社、いわゆる“空箱会社”を次々と上場させて空前のブームになっている。「SPAC(特別買収目的会社)」と呼ばれるもので、日本でも導入への期待が出てきた。いったい、どんな会社なのか。
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先行する米国だけでなく日本でも、低金利で行き場をなくしたあり余る投資マネーの“受け皿”として、SPACへの期待感が高まっている。
東京証券取引所の山道裕己社長が4月の朝日新聞のインタビューで「真剣に検討するべきだ」と語り、導入に対して前向きな考えを示した。日本でも過去に検討された経緯はあるが、現実味を帯びてきた。
ただ、事業の実態がない会社だとは、穏やかではない。そんな会社がまかり通るのか。
上場企業は通常、自動車メーカーや電機メーカー、デパートを手がけたり、食品をつくったり販売したりと、それぞれに事業を営んでいる。新たに起業した新興企業であっても、東証など各地(札幌、名古屋、福岡)の証券取引所に対して上場を申請し、要件を満たせば上場が認められる。
これに対し、SPACはまさに中身のない外枠だけの状態だ。まずはこの形で上場しておき、一定期間内に新興企業を買収し、空箱に中身を入れて実態を“後付け”した企業のことを指す。
そもそも、新興企業が上場するには手間ひまがかかる。大量の財務資料などをそろえたり、社会的に問題のない企業であることを示したりと、手続きが煩雑だ。準備を含めて上場までに「数年程度」かかるためハードルが高い。その点、SPACに買収される手法なら、煩雑な上場手続きを省けて「数カ月程度」で上場することができる。
米国でのSPACの上場ブームは、日本と同様に空前の金余りで、投資マネーが受け皿を探していることが背景だ。ニューヨークダウの株価は今年も年初から史上最高値の更新を続けている。
調査会社のSPACリサーチによると、米国でSPACの上場件数は年々増えている。2019年は59件で、調達資金総額が136億ドルだった。これが20年には4倍の248件、834億ドルに急拡大。21年は4月下旬までで310件と、すでに前年の1年間を上回るペースで、1006億ドルにも膨らんでいる。