と同時に、「記者会見」そのものがどんどん退屈になっているのも事実。いつしかそれは公人にとっての務めと化し、加えてマスコミ側も「有益な情報を提供されて当たり前」と勘違いし出したためです。スポーツ選手たちも然ることながら、芸能人も政治家も、紋切り型の金太郎飴みたいな会見ばかり。もはや形骸化しつつある今となっては「記者会見」の意義などほとんどないに等しい。たとえ「一方的な表明」だったとしても、大坂選手のアクションは十分に理解できます。むしろマスコミの節操がなかった時代の方が、知恵と気概を感じられる会見がたくさんありました。たけしさんの母上のご葬儀での神がかった囲み会見なんて凄かった。今で言う「神対応」とは大違いです。
それ以外にも、テレビなどで散々しゃべり倒した挙句に「では最後に観ている皆さんにひと言!」とか「今日のまとめをフリップにお書きください!」とか、いったいどういうつもりなのかと目や耳を疑いたくなる場面は多々あります。作る側の編集能力や仕事に対する自信が著しく低下している証拠です。ニュースや記事の「見出し」の質や品格も、救いようのない状態にまで落ちぶれてしまいました。
大坂選手の話に戻りますが、本物の影響力・インフルエンサーの素質を持った人は、得てして人見知りで内向的だったりします。無口で物静かな分、その場やその時に何が求められているか、何をすれば効果的かを見極める能力に優れている。少なくとも、カタコトの日本語を無理矢理喋らせて「なおみ語録」などと騒いでいる人たちよりかは、ずっと「伝える力」を備えているはずです。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年6月18日号