そんな篠さんと夫婦や恋人を演じた俳優陣と言えば、板東英二さん(『金妻II』『金曜日には花を買って』)、古谷一行さん(『金妻III』『木曜日の食卓』)、林隆三さん(『誘惑』)、中村雅俊さん(『しあわせの決断』『ふたりのシーソーゲーム』)、小野寺昭さん(『毎度おさわがせします』)など錚々たる男たち。小野寺さんとは即席ラーメン「うまいっしょ」のCMでも長年コンビを組んでいました。そして特筆すべきはやはり田村正和さん(『妻たちの危険な関係』『ニューヨーク恋物語II』『カミさんの悪口』)ではないでしょうか。「妻に先立たれた男やもめ」や「バツイチの独身中年」といった役柄の多かった田村正和を、唯一尻に敷き続けた女性は「篠ひろ子」以外にいません。

 一方で、古谷一行さんとのコンビも素晴らしかった。特に『金妻シリーズ』の団塊世代が40代後半に差し掛かり、二世帯住宅を建て、家族のあり方や老後を見つめる『木曜日の食卓』(92年)が好きです。ふたりが演じる夫婦の絶妙な「熟し方」は、往年のTBS木下プロ制作ドラマファンとしては終始ニンマリさせられること必至。

 改めて言います。今のドラマ界に不足しているのは「篠ひろ子的」な軽さを持った女優の存在です。鬼気迫る演技とか、漫画的なぶっ飛びキャラとか、萌えだのキュンだのも良いですが、ともすればその不在すら忘れてしまいがちな篠ひろ子の軽快過ぎる存在感は、今のドラマが失くした「日常」なのかもしれません。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年6月25日号

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