蟲柱・胡蝶しのぶ(画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻のカバーより)
蟲柱・胡蝶しのぶ(画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻のカバーより)
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 昨年12月に新聞の全国紙5紙の朝刊に『鬼滅の刃』の広告が掲載され、話題になったことがある。主要キャラクターの名ゼリフが紙面を飾り、「新聞ジャック」と呼ばれた。そのなかで「異質」だったのは、蟲柱・胡蝶しのぶのカットだ。その表情の“意味”に気づいたファンは騒然とし、なぜこのイラストが選ばれたのだろうかと議論が起こった。ここでは改めて胡蝶しのぶの表情に着目し、彼女の笑顔の裏に秘められた「覚悟」と「思い」を考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

【写真】新聞広告に使われた胡蝶しのぶのイラストはこちら

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■「新聞ジャック」の胡蝶しのぶのイラスト

 2020年12月4日、全国紙5紙で「鬼滅の刃・新聞ジャック」が行われた。人気キャラクター15名のイラストが大々的にが掲載され、多くの人たちが朝刊を買い求めた。しかし、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶのカットには、彼女の「死後の笑顔」が使用されていたため、それを見たファンは騒然とした。この場面は、宿敵である「上弦の弍」の鬼・童磨(どうま)に向かって、しのぶが「とっととくたばれ 糞野郎」と言い放ったシーンなのである。

 他の14名のキャラクターの絵柄を見ると、それぞれのキャラクター特性がよくわかるカットが使用されている。漫画の『鬼滅の刃』を読んでいるファンには、納得の絵ばかり。しかし、胡蝶しのぶの絵柄だけは“異質”だったのだ。

 この絵のしのぶの表情は、「静かな怒り」と、それをおおい隠す「笑顔」、そして鬼への「拒絶」がはっきりと示されている。主要キャラクターのうち、しのぶは鬼への憎しみと怒りを捨てきれなかった人物であるが、このイラストにも象徴されるように、胡蝶しのぶは常に「笑顔」で描かれていた。

■いつも「笑顔」でいなくてはならなかった理由

 コミックス19巻の「大正コソコソ話」には、しのぶがいつから笑顔を絶やさなくなったのかが示されている。

<しのぶは14歳の時にカナエに代わって蝶屋敷の主人になっています。><カナエの葬儀の後、妹たちの前ではいつも笑顔でした>(大正コソコソ話/19巻)

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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14歳からずっと「妹」たちを守り続けた