コックコートは着ない。ファッションブランド「アツシ ナカシマ」のエプロンがトレードマークだ(撮影/岡田晃奈)
コックコートは着ない。ファッションブランド「アツシ ナカシマ」のエプロンがトレードマークだ(撮影/岡田晃奈)
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 「エテ」オーナーシェフ、庄司夏子。今年、「アジアのベストレストラン50」での最優秀女性シェフ賞をはじめ、国際的な賞を次々と受賞した庄司夏子。料理の世界でこういった賞に、日本人の女性シェフがノミネートされることすらほとんどない。その扉を庄司は、こじ開けてきた。店と料理がすべて。自分の名前を世界で高めることで、生産者や職人までも報われる料理界を作りたい。

【写真】厨房のスタッフは女性3人。庄司は料理、接客、掃除すべてを担当し、表と裏双方に立つ

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 東京・代々木上原の住宅街の一角。秘密めいた入り口でインターホンを押すと、静かに扉が開かれる。小径を通った先のレセプションで村上隆のシルクスクリーンに迎えられ、そこからインゴ・マウラーのライトが照らすシックなダイニングルームへ。窓の向こうの庭園には、先鋭的なオブジェが光の中に浮き上がる。

 わずか70平方メートル、最大客席6人というレストラン「エテ」が今、世界中の美食家たちから熱い視線を浴びている。美食の館といえば、有名シェフを頂点とするピラミッド体制で大人数のスタッフを回す、本場フランスの「グランメゾン」が料理界の標準だが、その対極にあるミニマムな空間で、それらに挑んでいるのがオーナーシェフの庄司夏子(しょうじなつこ)(33)である。

 メニューを追っていこう。前菜は塩とスパイスをきかせた雲丹(うに)のタルト。次にメイヤーレモンをくりぬいたカップに、エシャロットソースであえた甘鯛(あまだい)のタルタル。カップにはグレープフルーツの果肉を一つひとつ張りつけて、マーガレットのようにこしらえた蓋(ふた)が、色鮮やかな花々に埋もれてのっている。

 タコスの皮で巻いた秋刀魚(さんま)のフィンガーフードと和梨のソース、甘鯛のうろこ揚げを目の前で松茸(まつたけ)のスープにジュッと落とし込む香ばしい一品……とコースは進み、圧巻は庄司の代名詞であるデザート「フルール・ド・エテ」。鮮やかなマンゴーのタルトが漆黒のテーブルに置かれ、その周囲に大輪のバラが、庄司の手によってちりばめられると、ストイックな空間がパリ・オペラ座のようなゴージャスな世界に一瞬で変化した。

■男性シェフは認められても 女性は通過できない

 庄司は今年3月、料理界のワールドカップと称される「アジアのベストレストラン50」で「最優秀女性シェフ賞」を、9月にはシェフに焦点をあてた国際賞「ザ・ベスト・シェフ・アワーズ」で特別賞の「フードアート賞」を獲得。2020年に「アジアのベストレストラン50」で受賞した「ベストパティシエ賞」と合わせて三冠を達成した。いずれも日本人女性初という輝かしい形容詞付きだ。

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