「どの賞でも特別か、いちばんいい賞を狙っていました。そうやって名前を覚えてもらうことが、今の私にはとても大事だから」
170センチの長身に、均整の取れたスタイル。授賞式では、脇腹が大胆に開いたロングドレスや、全身に深紅のバラを散らしたスパッツドレスという装いでレッドカーペットを歩く。愛想笑いをしない口元から出る言葉は不敵だが、その真意は、料理界に次の一ページを開きたい、というひたすらな思いにある。
「日本人に限らず男性シェフは世界で認められていますが、こういう場でノミネートされる日本人女性はいません。差別というよりも、料理界における“ふるい”の目が細かすぎて、それを通過できるのが男性だけだからなんです。私は、その目を少しでも粗くしたい。私のような小さなロールモデルでも、そして女性でも、ランクインできるって、みんなに知ってもらいたいんです」
料理の世界は経済と同期しながら、グローバル化、ボーダーレス化が激しく進んでいる。それとともに、お金に糸目をつけず美食体験に邁進(まいしん)するガストロノミスト、フーディーと称される人たちの、独特な市場が世界規模で形成されている。前述の料理アワードや、ミシュランのようなガイドブックがランク付けをすることで、レストランとシェフ間の競争は激化する一方、頂に至る道は年々、狭く、険しく、時に迷路のようにもなっている。
今年、ザ・ベスト・シェフ・アワーズで特別賞を受けたシェフ11人のうち、女性は庄司を入れた4人だった。アンヌ=ソフィー・ピックはフランスの著名な三ツ星レストランの後継、アナ・ロスはスロベニアというフーディー未踏地からの新星、ジェシカ・ロスバルは移民女性に料理を教えるNPOの共同創設者と、料理以外にそれぞれの強いアピールポイントを持つ。「世界のベストレストラン50」で5回、世界一に輝いたコペンハーゲンの「ノーマ」は、蟻(あり)や苔(こけ)を食材に加えるという衝撃的な創意で注目を集め、そこにマケドニア系移民というオーナーシェフ、レネ・レゼピの物語が重なっていた。
世界に打って出るには「日本人」「女性」というキーワードは、もはや何ほどのインパクトでもない。言葉を換えれば、庄司はほとんど徒手空拳で世界に挑んでいる。今年は7月から11月までロンドン、ドバイ、マドリード、メキシコ、LA、モルディブと、息もつかずに世界中を渡り歩き、美食イベントに登壇しながら顔を売った。
「今年と来年前半がマジ勝負だと思っているんです。世界的なアワードをとれば、スタッフと食材の生産者さん、店を支えてくれる人たちに報いることができる。私のような人間が注目されることで、未来も開けていくはずだ、って」