この政権を理解するにはイスラエル社会の多様性を知らなければなりません。イスラエルの人口の約80%はユダヤ人、20%はアラブ人で構成されています。アラブ人の多数派はイスラム教徒ですが、キリスト教徒、ドゥルーズ派、その他の小さなグループの少数派もいます。またユダヤ人社会は、世俗派と宗教派、ヨーロッパ出身者とアラブ諸国出身者、イスラエル生まれと移住してきた人々、都市の住人と周辺の住人、そしてもちろんイデオロギー的に右派や左派などが絡み合いながら、人々の投票行動に影響を与えています。

 その不均一性と政党間の内部の違いにもかかわらず、新政権はすでにいくつかの成功を収めました。まずはネタニヤフ氏の右派連合を破り、彼の長い首相職に終止符を打つことができました。また、不必要な官庁の閉鎖、2年間の予算の準備、米国のバイデン政権との関係改善など(ネタニヤフ氏はトランプ前米大統領とは非常に良好な関係を築いていたと伝えられています)、いくつかの重要な決定をすでに行っています。この新政府は、イスラエル社会の異なる、時には対立するセクター同士が協力できる希望を私たちに与えています。

 政治的な観点から見ると、この状況は1993年の日本で生まれた細川政権を思い出させます。現在のイスラエル政府と同様に、8つの異なる党会派で構成され、1993年に38年続いた長期政権の自民党支配に終止符を打ちました。この政権は9カ月しか存在しなかったけれど、政治腐敗と闘う法律や選挙制度の変更など、その後の日本政治に影響を与える重要な改革を行いました。

 イスラエルは建国73年。もしこの新しい政権がそれぞれの違いを乗り越え、協力することができるのなら、将来ユダヤ人とアラブ人が一緒に普通に暮らすことができる日をつくることも可能かもしれません。

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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