『鬼滅の刃』に登場する鬼の中には、圧倒的な剣技を誇る「上弦の壱」黒死牟がいる。彼は鬼でありながら、鬼殺隊と同じ「呼吸」という戦闘術を使う。鬼を滅殺するためにあみ出された「呼吸」を、なぜ鬼が操るのか。黒死牟が鬼になった経緯をふり返り、彼が「呼吸を使う鬼」として、何をなしえたかったのか考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。
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■継国一族の後継者だった黒死牟
『鬼滅の刃』では、鬼の実力者を「十二鬼月(じゅうにきづき)」と呼ぶ。この十二鬼月の頂点にいるが、「上弦の壱」の黒死牟(こくしぼう)だ。黒死牟は人間だったころの名前を、継国巌勝(つぎくに・みちかつ)といった。戦国時代に、武家の家に生まれたが、彼には縁壱(よりいち)という名の双子の弟がいた。当時、双子は「不吉な存在」と考えられ、この弟は「忌み子」(いみご)として育てられることになる。
一方で、巌勝は後継として成長していく。心優しい巌勝は弟のことを気にかけ、父から暴力で静止されても、かわいそうな弟のもとへ忍んで行くことをやめなかった。しかし、こののち、巌勝の心を砕くような出来事が次々と起こる。
■弟の剣技の才と母の死
継国兄弟が7歳になった時、周囲を驚かせる事態が起きた。剣を習ったことのない縁壱が、巌勝の剣術指南役を一瞬のうちに打ち負かしたのだ。
<今まで哀れんでいた者は 己より遥かに優れていた>(継国巌勝/20巻・第177話「弟」)
この事件をきっかけに、縁壱は、巌勝の代わりに後継に指名されそうになる。しかし、縁壱は「忌み子」である自分が、兄と継国家の「災い」にならぬようにと、自分をかばってくれていた病身の母が亡くなった日に、家をそっと飛び出した。
その後、巌勝は家督を継ぎ、弟のいない日々を静かに過ごしていた。そんなある日、巌勝が鬼に襲撃されたところを、縁壱が救う。巌勝は、大人になった弟・縁壱の完成された剣技を目の当たりにした。この再会がきっかけとなり、巌勝の苦悩の日々がはじまる。