「我は、おばさん」と高らかに宣言する岡田育さん(41)は、古今東西の文学、漫画、映画などに登場する中年女性に注目し、本書『我は、おばさん』(集英社/1760円・税込み)で「おばさん」像を再定義した。
何かと否定的に語られる「おばさん」だが、岡田さんの目を通すと、「与えられる側から与える側へ回った女たち」、親子ともきょうだいとも違う「『斜め』の位置から、年下世代に接してくる」など、その頼もしい姿が見えてくる。
「私の世代はコギャル、負け犬予備軍、アラサーと次々に新しい名前を付けられて、もう疲れちゃったんです。そこへいくと『おばさん』は私たち全員を大きく包む便利な言葉。このまま侮蔑語にしておくのはもったいないと思いました」
岡田さんの世代の女性は、よき娘、よき妻、よき母となるように育てられたが、「おばさん」になる方法は教えられなかった。そこで、これからの長い中年期をどう生きればいいのか、『更級日記』、『ポーの一族』、映画「マレフィセント」などを読み解き、ヒントを探った。
「誰がお手本で、誰が反面教師なのか」「堂々たる素敵な先輩おばさんの姿を見つけるたび、私は少しずつ心強さを取り戻す」と書いている。
印象的なのが野溝七生子の小説「ヌマ叔母さん」だ。出合ったのは学生時代、沼田元氣『ぼくの伯父さんの東京案内』に影響を受けた頃だった。
「孤独を愛するかっこいいおじさんのようになりたいと思ったものの、一人旅をするにしても女は男と同じようにはいかない。そんなとき沼田さんの勧めで『ヌマ叔母さん』を読み、こちらがロールモデルになるかもしれないと思いました」
以来、折に触れて読み返している。軍人一家に生まれたヌマは独身のまま外国で暮らし、戦争で男たちをうしなった家族のもとに帰ってくる。
「私は30代で結婚して、甥と姪はいるけど子供はいない存在として人生の中間期を生きている。そういう目で読み直すと、ヌマ叔母さんがなぜ子供を持てなかったのか、産む、産まないが女たちの人生をどう変えていくのかなど、染み渡り方が若い頃と違うんです」