──豊川さんは「明日は大勝負だ」という日に食べるものはありますか?
大勝負の前の日の食事は、だいたいロケ弁です(笑)。不思議なことに、大変なシーンの前の日の撮影は、早く終わらないことが多いです。何でもないシーンなのに、手間がかかってしまったりする。映画の神様が悪戯(いたずら)をしてるのかなと思います。
でもそれくらいのほうが、肩の力が抜けて、難しいシーンがうまくいったりすることもあります。あまり入れ込んでいくよりもいいかもしれません。
──今年でデビュー40周年。これまでの俳優生活で転機になった作品は?
全作品が転機になったと言えると思います。「これをやったから、次の作品につながった」と感じます。
俳優にとってすごく必要な要素に、忘れることというのがあります。やり終えた仕事を忘れていかないと、次が入ってこない。次を演じることができないので。
僕は、作品全体のことよりも、シーンごとの印象をすごく強く感じていると思います。その日の撮影が終わると、マネジャーに言うんですよ。「今日は2勝3敗だったなあ」とか「8勝3敗だったかなあ」と。
──勝ち負けとは?
もう、監督のOKとかがわかるんですよね。何%のOKなのか。監督は現場だけに関わっているのではなく、スケジュール管理や予算も考えないといけない。そういうところとも戦いながら、その時その時で、OKを出しているわけです。
監督が本当に満足してOKを出したと思えた時は、勝ち。「今のはそうじゃないけど、次のシーンをやらないといけないから」ということで出したOKは、負け。
自分の中での捉え方ですが、そういう感じで一つひとつのシーンを撮っていますね。
(構成/本誌・菊地武顕)
とよかわ・えつし 1962年生まれ、大阪府出身。映画「Love Letter」、「八つ墓村」、ドラマ「NIGHT HEAD 」「愛していると言ってくれ」「青い鳥」など数多くの主演作が大ヒットし、日本を代表する俳優に。デビュー40周年を迎える今年、主演映画「仕掛人・藤枝梅安」(2月3日)、「仕掛人・藤枝梅安 二(正しくは〇に漢数字の二)」(4月7日)が2作連続公開。
※週刊朝日 2023年2月3日号