起業前は、ともに公認会計士として都心にある大手監査法人に勤務していた。ジェラート店とはギャップのある前職だが、二人とも新卒で入社した時から、「就社」という感覚は持っていなかったという。
入社8年目に長い休暇を取って世界旅行に出かけ、ローマで食べたジェラートのおいしさに心を奪われた。その勢いでボローニャにあるジェラート学校の短期講座に通い、帰国後に退社、起業に進んだ。店を開くなら、コミュニティーの交流が盛んな鎌倉、と以前から考えていた。
「会社員時代は、目の前の数字と格闘しながら、自分が誰に貢献しているのかわからなかった。人間的なコミュニケーションへの渇望があって、ショップオーナーに行き着いたと思います」(純さん)
昨年は伊豆のホテルにジェラートとパンのショップも出店し、来春には湘南に新たな工房を設けて、コーヒーや焼き菓子も販売する。この5月には次男が誕生し、公私ともに充実の日々だ。
「店では目の前でお客さまが『おいしい』と喜ぶ姿を見ることができます。それが私たちの幸せにつながっています」と、愛子さんも言葉を添える。
会社員から転身し、「かまずよう」を舞台に独自の仕事を打ち立てている例は、枚挙にいとまがない。
高徳院の大仏さまで有名な長谷は、鎌倉屈指の文化地区だ。この一角にある日本家屋でシェアハウス「甘夏民家」と、週末カフェ「雨ニモマケズ」を運営するのは、不動産会社「Safari B Company(サファリビカンパニー)」の経営者、横山亨さん(48)だ。甘夏民家は妻の孫鎬廷(ソンホジョン)さん(46)の行政書士事務所と横山さんのオフィス、そして二人の自宅も兼ねる。拠点を多機能にすることで、歴史ある邸宅の購入と維持管理の費用をまかなっているのだ。
「風情ある木造家屋を暮らしながら守り、町並みを次代に引き継ぐ方法はないか。それを考え抜いたスキームがこの家です」
■会社の「奴隷」をやめて愛着ある物件を扱う
横山さんは10代後半から世界放浪を繰り返し、20代後半で大手不動産販売会社に就職。営業マンとして、500軒以上の不動産売買に携わった。その中で、いいとは思えない物件が、儲けのために売られていく場面をたくさん見た。