9.11アメリカ同時多発テロの翌年に発表されたソロ曲「ROCK AND ROLL HERO」(02年)では、ボブ・ディランを想起させる散文的なアプローチで、かつて抱いたアメリカ文化への憧憬と当時のブッシュ政権への風刺が描かれていた。

 さらにサザンが5年間の休止を経て電撃的な活動再開の狼煙となった13年の「ピースとハイライト」では、日本への愛と世界平和への願いを、世代を超えて共有したいという理想が歌われていた。

■リスナーを支え、励ます

 時に曲解を受けながらも、桑田は常に「歌いたいことは歌う」というスタンスを貫いてきた。特に人と人との絆や共存、生の尊さを描く作風は、10年に見舞われたがんによる闘病と翌年の3.11を経たことでより顕著になったが、今回の「SMILE」もまさにそんな1曲と言えるだろう。

 この「SMILE」を皮切りに、桑田は3ヶ月連続配信リリースを発表。9月15日にはこれらの曲を含む6曲入りのEP(ミニアルバム)をリリースするという。

 7月10日に放送された桑田のレギュラーラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」では、リリースに先駆けて新曲「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」がオンエアされた。ホームドラマの傑作「寺内貫太郎一家」(原作:向田邦子、演出:久世光彦)の世界がモチーフだというこの曲にもまた、コロナ禍における人と人との繋がりが描かれているようだ。

 無論、桑田の音楽にはバリバリのエロもあれば笑いもあるし、前述のようにシニカルな風刺だってある。だが、いまの彼はリスナーを支え、励ます曲に注力している。どこか、それがいまの自分の役割なのだと自ら担っているようにも映る。

「SMILE」、そしてすでに収録が発表されている損害保険会社のCMタイアップ曲「金目鯛の煮つけ」も含めて、9月の新作EPはコロナ禍を見つめる桑田ならではの詩情が集約される1枚となるのか。数奇な運命を辿ってようやく届けられた「SMILE」を聴きながら、その完成を楽しみに待っている。
(ライター、編集者・内田正樹)

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