「オリンピックで驚くような記録がしばしば出るのは、ものすごいプレッシャーをポジティブにとらえて、心身ともに最高の状態で試合に臨んだ結果だからです。選手からすれば、応援がほしいというのは、トップアスリートほどそれをプラスに変えられる力を持っているから。そんなスポーツ心理学の面から見れば、観客を入れたほうがいい記録が出やすくなるでしょう」

 ただし、メンタルトレーニングを積み重ねてきたトップ選手であっても、そのときの状況によってはプレッシャーをネガティブに認知してしまい、不安な気持ちがぐっと高まる状態に陥り、大きく崩れてしまうこともあるという。

■「真央ちゃん頑張れー」で伝説のフリー

 不安な気持ちから選手が大きく調子を崩し、観客の声援がきっかけで奇跡のように復活した例もある。14年ソチ五輪でのフィギュアスケート、浅田真央選手の「伝説のフリー演技」だ。

 2度目の五輪。金メダルは目前と言われていた。

 ところが前半のショートプログラムでは3回転半で転倒するなどミスが続き、まさかの16位スタート。いきなり金メダルは絶望的になった。

 演技の前、浅田選手は「失敗できない」というような強い認知不安に襲われ、本人もわけが分からないくらい体が動かない状態になってしまったのではないかと、堀川さんは推察する。

 さらに、「ヒステリシス現象と言うんですが、不安や緊張により生理的に体が反応してしまうと、簡単には元のパフォーマンスには戻りません」。

 ところが、浅田選手は後半のフリープログラムで見事、逆境をはねのけて復活。自己ベストを更新する最高の出来だった。

「インタビューで本人が答えていましたが、フリーの演技が始まる直前に『真央ちゃん頑張れー』という声援が聞こえ、『私一人じゃないんだと思えたんです。みんなと一緒に戦っていると思えたときに、すと~んって入りました』と。浅田選手は前日の結果を自分のなかで整理して、もう何を考えてもしょうがないという心理状態でリンクに立ったと思います。そこに声援が届いた。自分を応援してくれている人がいると思った瞬間、それがすごくポジティブな意味で開き直るきっかけになり、いい演技につながったと思う」

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