名もなき18歳の若者によって書かれたアパートの柱のサイン。それが消されることも、破損されることもなく半世紀を超えて残っていた。途中でトラブルに巻き込まれかけたものの、ようやくファンのもとへたどり着いた。
ザ・タイガースは、明月荘を出てまもなく音楽シーンの頂点に上り詰めた。メンバーそれぞれが今も現役で活躍していることを思うと、もはやその奇跡的、運命的なストーリーに感動を禁じ得ない。
瞳さんが、デビュー前の様子を振り返る。
「はじめは京都を中心に活動していた僕たちですが、メジャーへの登竜門とされた大阪のジャズ喫茶『ナンバ一番』に拠点を移すため、明月荘に移り住みました。当時のサインはもうほとんど残っていないと思いますし、とくに沢田はメンバーの中で一番、サイン“無精”でした。そんな彼がわざわざ部屋の柱にサインを書いたというのは興味深いです。昭和41年9月というと、ちょうど東京のさまざまなプロダクション関係者からスカウトがあったころ。夢に向かって歩んでゆくにあたって、彼なりの決意表明だったのではないかと想像します」
ジュリーにはまだ話していないらしいが、今回の一件を知って、本人の胸にはどんな思いが去来するだろうか。(中将タカノリ)
※週刊朝日 2021年7月30日号