ところで、記者会見が終わった後に、ちょっとしたことが起きた。その場にいた女性が青木先生に向かってこんなことを言ったのだ。

「青木先生みたいに、はっきりと言ってくださる男性のお医者様はいないのですか?」

 悪気のない明るい調子だったこともあり、私は一瞬で凍りついてしまった。同じことでも女性ではなく男性が言ったほうが聞かれる、重みを与えられる、影響がある……そんなことがいくらでもある社会だ。だからその女性も無邪気に「青木先生みたいな男性がいたらいいのに」など、全女性に失礼なことを言ってしまったのだろう。とっさに隣にいた友人2人が全く同じことを言った。

「いないから、こんな社会になったんでしょう!!」

 ですよね。自民党と親しすぎる男性中心の日本医師会はもちろん、個として政府の方針に抗議し、意見を述べてこられた男性医師がこのコロナ禍の1年間にどれほどいたでしょう?

 東京五輪・パラの強行に唯一良かった点を見いだすとしたら、今の日本の問題がかなり露呈したことかもしれない。特にジェンダー問題のひどさは激しくあらわになった。変えるしかない、変わるしかない、そうしなければ命に関わる。そういうことが鬼気迫る形で目の前に現れたことが、東京五輪・パラ強行の唯一の意義だと思いたい。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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