東京五輪が当初、掲げていた目的も目標も影を潜めている。復興五輪は「コロナに打ち勝った」に置き換わり、関連予算も膨らみ続けている。AERA 2021年8月9日号から。
* * *
東京五輪は招致時点では「世界一コンパクト」を旗印とし、東日本大震災からの復興を世界に示すことも目的の一つとされていた。関連予算は、13年時点では約7300億円。00年のシドニー五輪の予算と同じ程度で、アテネや北京、ロンドン、リオデジャネイロを下回る額を目指していた。
■消えたコンパクト五輪
しかし、予算は膨らみ続けたうえに、復興五輪という印象も薄れている。
会計検査院は18年度までの6年間で、国が関連経費など1兆600億円を支出したと指摘した。都も関連経費を7770億円と発表している。組織委が公表した経費1兆6440億円に、それらの関連経費を含めると、全体の経費は3兆円を超す。コロナ禍による1年延期が響いたとはいえ、想定以上に金がかかる大会となった。
コンパクト五輪が実現できないのであれば、大会中止の選択肢もあり得たといえそうだ。実際、組織委員会の森喜朗前会長の辞任などで五輪への反感も高まり、中止を求める世論が高まった時期もあった。
野村総研の木内氏によれば、五輪中止による経済損失額は約1.8兆円と見込まれ、「景気の方向性を左右するほどではない」という。4回目の緊急事態宣言で発生するとみられる損失約2.2兆円よりも少ない。
7月31日には都内だけで4千人以上の新規感染者が発生し、全国でも感染が再拡大している。こうした状況を防ぐ意味でも、五輪の中止は十分、現実的な選択肢だったかもしれない。だが、菅義偉首相は30日の記者会見で「自宅でテレビ観戦をしていただけるよう要請をしっかり行いたい」と述べ、中止の考えがないことを示した。
ただ、日本勢が30日時点で過去最高の17個の金メダルを獲得するという素晴らしい記録を残している大会となっているのは、“難産”の末に開幕を迎えた東京五輪の救いと言えるかもしれない。(ライター・平土令)
※AERA 2021年8月9日号より抜粋