ボランティアへのワクチン接種の配慮も十分ではなかった、との指摘もある。

 菅義偉首相は、五輪開催は「国民の生命と健康を守られること」が前提だと繰り返し述べていた。東京都で感染者が急増し、2日連続で3千人を超えた7月29日にその前提が守られているかを記者から聞かれると、65歳以上の高齢者への接種が進んだことを理由に「(感染者に占める高齢者の割合が)ワクチンによって大幅に減少している」と五輪開催を正当化した。

 だが、大会に参加しているボランティアの多くは64歳以下である。しかも、ボランティアスタッフへのワクチン接種は万全とはいえず、未接種のまま大会に参加せざるをえなかった人もいる。8月9日までで、組織委員会が発表した大会関係者の感染者は436人。うち選手は29人だけで、選手以外の感染者の方が多い。それでも武藤敏郎・組織委員会事務総長は9日の会見で「コロナ対策が機能した」と自画自賛。「やればできる。人々にも勇気を与えた」と言った。九州からボランティアに参加した女性はこういった組織委員会の楽観的な見方に憤る。

「大会前に2回の接種を終わらせたかったんですが、『ワクチンが打てる会場は東京都庁だけ』と言われました。しかも交通費や宿泊費は自己負担。仕事の休みも取れず、結局はワクチンを1度も打てずに大会に参加することになった。偉い人たちはほとんど2回打ってるのに、ボランティアへの対応はひどすぎます」

 富める者はますます富み、弱い者は忍耐を迫られる。いま、世界中に広がる格差問題が、東京五輪に現れているように見えた。

 バッハ会長は閉会式のスピーチで、「みなさんの笑顔が心を温かくしてくれました。ボランティアの皆さん、本当にありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。しかし、その裏には感染の危険性を自覚しながら大会に協力した若者がたくさんいた。その事実を忘れてはならない。

(本誌・西岡千史)

*週刊朝日オンライン限定記事