言われればそう、わたしは母の期待に応えるのに毎日必死だった。褒められないとわかっていても頑張るしかなかった。もはや褒められたいから頑張るのか、叩かれたくないから頑張るのか、自分でもわからなくなっていた。
願わくは、母の笑った顔を見たかった。少しでも機嫌よくいてほしかった。般若のように怒りで目を吊り上げた顔を見ていたくはなかった。そのためにわたしは頑張り続けるほかなかった。
母は占いや迷信をやたらと好む傾向があって、どこかで聞いてきては妙なおまじないの札を書いてお財布に入れたりしていた。
あれはたしか小学校五年くらいのことだったろうか。
抜き打ちで子供部屋を覗きに来た母が、わたしが勉強をしていなかったことに腹を立てて、「手を出しなさい! お灸をすえるから!」と鬼の形相で叫んだ。手の甲の親指と人差し指の間にお灸をすえるといい子になるという迷信がかった話を、どこかで聞いてきたらしかった。
我が家にお灸はなかったが、母はヘビースモーカーだったのでタバコの火を押しつけようと構えていた。
「早く出しなさいよっ。いい子になるんだから、さあ早く!」
オレンジ色のタバコの先が目の前にちらついて、怖くて怖くて涙が出た。
「ごめんなさい、もうしませんから。もう二度としませんから……」
必死に謝りながらわたしは両手を後ろに隠した。
謝りながら、なにをこんなに謝っているのか途中でわからなくなっていた。別になにか大事なものを壊したわけじゃない、誰かにケガを負わせたわけでも万引きをしたわけでもない。ただちょっと、彼女の思うように勉強をしなかったというだけのことだ。それがそんなに罪なのか? 悪なのか?
子供ながらに理不尽さを覚えた。それでも泣きながら謝るしかできないくらい、わたしは幼かった。
声がかれるまで謝り続けた頃、ようやく母が根負けしてタバコを消した。ぎりぎりのところで、わたしは火傷を負わずに済んだ。
この出来事を父に伝えられたのは二十年以上が過ぎた頃、わたしが大人になってからだ。それまでは、打ち明けることができなかった。