「古典落語でよくある人情噺とはちょっと異なるストーリー性ですね。主人公の男の生命の火が消えてしまうというバッドエンドです。本来落語とは、人間の欲深さ、愚かさ、だらしなさを描いているものです。それを笑えるものにコーティングしているものがほとんどだと思うのですが、『死神』は、そこをむき出しに描いた演目です」

 そこに米津が注目したのではないかと言う。

「立川談志師匠は、落語について、よく、『人間の業の肯定』という言葉を使っていらっしゃいました。怠けたい、遊びたい、楽したい、人間ってそういうもので、それを描いているのが落語なんだと。米津さんも、そういった部分にインスパイアされたのかもしれません」

「死神」は、生命の火が消えるという“サゲ”を、消えないハッピーエンドに作り替えたり、くしゃみをして「うっかり」消してしまったり、演じ手によってアレンジされることの多い演目という側面も持ち、どう落とすかということにも注目が集まる。

「僕たち演じ手の人気も高いです。だけどそのぶん、オチをどうするか、そこばかりが注目されることになりがちなので、そこがプレッシャーになったりすることもあります。僕の場合は、オーソドックスなものですね」

 一之輔さんも、こういった曲がきっかけで落語に興味を持つという現象は大歓迎だ。

「今は、インターネット上にも、動画や音源が山ほどあります。まずそういったものから触れていただいて、そして、実際に寄席に足をお運びいただいて、いろいろな発見や刺激を楽しんでもらえたらうれしいですね」

 緊急事態宣言の延長につぐ延長、何かと鬱屈しがちな日々だからこそ、米津玄師の曲と落語の余韻に浸りたい。(本誌・太田サトル)

週刊朝日  2021年8月20‐27日号

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