8月5日現在、再生数約1500万回を記録するMVは現存する木造建築としては最古の寄席、新宿末廣亭で収録された。

「特に曲の発表直後には、若いお客様は多かったですね。『初めて(寄席に)来ました』と、外観の写真を撮られたり、中に入ってお客様役の米津さんが座った席をたずねて、うれしそうに座ってらっしゃったりします」

 と言うのは、新宿末廣亭の取締役、林美也子さん。林さんは、MVの収録にも立ち会っている。

「落語家姿の米津さんが上手から登場された瞬間、見事に噺家になりきられていて。末廣亭の高座にすんなりとはまっていました」

 所作など演技指導は、落語家の柳亭左龍が担当した。林さんは言う。

「一連の所作があまりにも美しくて、もうあきれちゃって(笑)。そのお稽古はたった1回だけだったそうですが、常にパーフェクトを目指される方だそうですから、相当ご自身でお稽古されたのではないでしょうか」

 本誌でコラム「ああ、それ私よく知ってます。」を連載する落語家の春風亭一之輔さんも、末廣亭での“米津死神現象”を実感した一人だ。

「急に10代、20代の若い方の姿を見かけるようになりました。聞いたら、『米津さんのミュージックビデオを見て来ました』と。いわゆる“聖地巡礼”ですね。動画サイトなどでも、『死神』について解説する動画を発表する落語家も出てきています」

 過去にも、ドラマ「タイガー&ドラゴン」や、アニメとドラマで人気を集めた「昭和元禄落語心中」、朝ドラ「わろてんか」など、落語や寄席が舞台になった作品が人気となると、こういった現象は起こってきた。

「われわれのやっていることは、昔から変わらないのですが(笑)、おかげで、落語というものの地位が上がったというか、落語が好きですと言いやすい世の中になってきている気はします。ありがたいことですね。今後、『死神』をやる若手は増えそうですね(笑)」

「死神」は、グリム童話の一編を、明治期に活躍した落語家、三遊亭圓朝が翻案したものとされる。一之輔さんは、その魅力をこう解説する。

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