もう、菅では選挙が戦えない──。7月の東京都議選での敗北を経て、自民党内をそんな空気が支配し、「9月退陣論」や「五輪花道論」も持ち上がる。だが二階俊博幹事長は再選に意欲を示す菅首相について、「しっかり続投していただきたいと思う声のほうが国民の間にも党内にも強いんではないか」とうそぶいた。
首相を支え、党を掌握しようとする一方、老練な二階氏は小池百合子東京都知事にも「国会に戻ってくるのであれば、大いに歓迎」と秋波を送った。二階発言に前後して、中谷元・元防衛相は自身が属する谷垣グループの会合で「政局を安定させるために、衆院選後に『小池新党』と保守合同を真剣に検討すべきではないか」と語った。
船田元・元経済企画庁長官も「コロナ禍における政治的混乱を避け、政局を安定させるためには有力な選択肢となりうる」と自身のメールマガジンに記した。
小池待望論が党内に浮上するなか、安倍晋三前首相は月刊誌「Hanada」のインタビューで、「ポスト菅」候補として茂木敏充外相、加藤勝信官房長官、岸田文雄前政調会長、下村博文政調会長の名を挙げた。
安倍氏と麻生太郎財務相、甘利明・党税制調査会長の「3A」と二階氏とは摩擦が取り沙汰され、小池氏の“国政復帰説”を巡っても暗闘が続く。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が語る。
「安倍さんがポスト菅に挙げたのは安倍・菅政権で中枢の人たちばかり。ですが国民の間には、今の失政の戦犯たちにはもう辞めてもらおうじゃないかというムードが充満しています。中谷さんや船田さんが小池さんにラブコールを送ったのも、お友達内閣には勘弁してもらいたいと思っている人が党内に多いからでしょう。二階さんには石破茂・元幹事長というカードもあります。石破さんが総裁選に出て党員投票が行われれば、最も票を集める可能性は高い」
ただ、小池氏の国政復帰について角谷氏はこうクギを刺す。
「小池さんは『五輪がステイホーム率を上げてくれている』とか『一人暮らしの方は自宅を病床に』などと発言して顰蹙(ひんしゅく)を買いました。小池さんもコロナ失政の責任者の一人。コロナ禍が収束しない状況で都政を任期途中で放り出すなんて、普通は考えられない」
(本誌・亀井洋志、池田正史)
※週刊朝日 2021年8月20‐27日号より抜粋