雑談でリラックスさせながら、一枚一枚、丁寧にシャッターを切るのがマルベル堂流。ネーミングは「80’s」だが、何を撮ってもいい。昔のレコードジャケットを持ち込んで同じように撮りたい、というようなリクエストにも柔軟に対応している。

 取材中、「みんなに笑顔になってほしい」と繰り返し口にしていた武田さんには、撮影の際、強く意識していることがあるという。

「舟木一夫さんは常々、『ステージの幕が上がったときの拍手よりも、幕が下りるときの拍手のほうが大きくなくちゃダメだ』っておっしゃっているそうなんです。うちも同じ。お客さんが来たときに衣装や小道具を見て気分が上がる。でも帰るとき、さらにテンションが上がっていてほしい。写真の仕上げの速さも、お客さんへの態度も、絶対にがっかりさせない。当たり前なんだけど、当たり前のことを忘れずにきっちりやる。そういう昭和くさい教えを守りつつやっているんですよ(笑)」

 最近では、メイジャーデビュー20周年を迎えた氣志團から声がかかり、100周年にふさわしい、昭和を体現するかのようなプロマイドも生まれた。マルベル堂は今後の展望をどう考えているのか。

「プロマイド撮影は続けていきたいし、技術も継承していきたい。200周年のときも撮影していて、『まだあったんだ』って言われたいですね。マルベル堂はたくさんの笑顔を撮ってきた。スターだけじゃなく、これからもたくさんの笑顔を撮影しつづける。それがやっぱりいちばん大切なことなのかな、と」

■マルベル堂のすべては「ファンのため」

 スターを取り巻く環境は大きく変わった。いまや、インターネット上で気軽にアイドルの写真や情報に触れられるだけでなく、時にはSNSなどで直接つながることさえできる時代だ。マルベル堂も、その波を大きくかぶった。「写真を買う文化が薄れてしまった。デジタルの供給ツールを増やしていかなくては」と、公式サイトやAmazonでのプロマイドやグッズ販売、コンビニエンスストアのネットプリントで購入写真を出力できるサービスも始めている。

 それでも、基本は変わらない。「ファンのため」。今後どのように時代が変わり、ファンとスターの有り様が変わったとしても、この姿勢がある限り、マルベル堂は生きつづけるに違いない。(編集部・伏見美雪)

※AERA 2021年8月16日-8月23日合併号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?