経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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冗談みたいな名前の男が世間を騒がせている。その人はサム・バンクマンフリードだ。大手暗号資産交換事業者、FTXトレーディングの創始者だ。FTXは、11月11日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。要は経営破綻に追い込まれたのである。
バンクマンフリードのバンクマンの部分を日本語でいえば「銀行マン」だ。人様のおカネをお預かりして運用する会社の責任者が銀行マンだというのは、何ともふさわしい。だが、こういうのを名前負けというのだろう。いや、看板に偽りありといった方がよさそうだ。
バンクマンフリード氏は、みるからにITオタクの塊だ。爆発したみたいなモジャモジャ頭と半袖のTシャツ姿がトレードマーク。我々が描く銀行マンのイメージとはおよそ程遠い。30歳にして億万長者。一握りの仲間たちと、全くブラックボックス的な経営を展開していた。経営拠点をバハマ諸島に置き、豪華版のリゾートマンションに相棒たちと同居していた。経営拠点というよりは、オタク仲間の合宿所のようなものだったという。この合宿所の取得のために、顧客の資金を使い込んだという話もある。
預かり資産の私的流用疑惑についていえば、銀行マンが経営する投資会社「アラメダ・リサーチ」に100億ドル規模の資金が渡っていたことも判明している。これらの資金は投機に充てられ、概ね消えてなくなっているらしい。