猪瀬直樹氏 (本人提供)
猪瀬直樹氏 (本人提供)
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 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって1年延期された東京五輪が幕を閉じた。人の交流を避けることが求められた緊急事態宣言の中、多くの反対を押し切って開かれた大会は、五輪のあり方を問う機会となった。作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏の視点を紹介する。

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 中止・延期論が同調圧力となり無観客となったのは残念な結果です。開催を約束して招致した国際公約なのに、中止したら日本は国際社会で信用を失ってしまう。五輪は120年も続いている。安易な中止論は、その重みがわかっていない。どう切り抜けていくかという発想で、実現していかないといけない。

 感染拡大と合わせて開催の是非が議論されたが、医療の専門家にとって、五輪は二次的なもので、一次的な対策は感染させないこと。人流抑制の対象はデパート地下やショッピングモールであって、スポーツ観戦ではない。日本のコロナ感染状況は、死亡者数など欧州に比べて低い。東京五輪の直前に、ウィンブルドンのテニス大会やサッカー欧州選手権は有観客で開催した。日本でもJリーグやプロ野球を有観客で開催しており、五輪中止というのはロジックが成り立たない。

 外国からの観客は制限せざるを得ないにしても、日本の観客は会場に入れてほしかった。テレビで放送されたが、現場で見るのとは違う。日本人が選手の活躍する姿を見て希望や可能性を感じることが大事だった。特に若い人に生で見ていただきたかった。

 ワクチン接種にしても、なぜ首都圏に集中しなかったのか。東京が火元なのに、燃えているところと、燃えていないところを平等に消火している。ワクチン接種を広く、薄く、まんべんなくやろうとして、戦略的な発想が欠けていた。

 2013年に招致したときは国民がスポーツに親しむことや、東日本大震災からの復興をうたっていた。組織委員会の会長就任を、ガバナンスもしっかりとしているトヨタ自動車の張富士夫名誉会長(当時)にお願いしようとすると、政治家に蹴られて、森喜朗体制となった。この体制となって、震災復興などのアピールもなくなり、費用もどんどん膨らんでいった。

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