先日編集部から、豪華な花を、どっさり贈ってもらって、びっくりしました。このヨコオさんとの往復書簡が百回を超えたお祝いだということです。

 百歳にもなって、週刊誌の連載原稿が百回もつづけられるというのは、なんといっても、ヨコオさんと私が健康だという証拠ですね。

 ヨコオさんは、このところけがもせず、入院もせず、ホントにお元気です。

 私も数え百歳になっても、この原稿を書かせてもらい、他にも、文芸誌や新聞にも連載随筆を書きつづけ、たまに入院したりしても、数日ですぐ帰ってきます。食べて、出して、よく眠り、よく笑って、まだ死にそうにもありません。

 あ、今回は健康について書くのでしたね。

 健康のヒケツは、「よく食べ、よく出して、よく眠る」です。そうすれば、一日の時間は自分の思い通りに支配できます。ヨコオさんも私も、そうしようとも思わず、いつの間にか、そうしているのです。

 それは、お互いに全身を打ち込む仕事に、若いときからたずさわっているからです。

 絵を描くことも、文章を書くことも、時間を支配して、一日の時間を人より長く生きてきたからです。

 文筆家の場合は、自分でも生きる時間を勝手に縮めて自殺することが多いのです。三島さんの狂絶な死も自殺です。ヨコオさんが三島さんにこの世でめぐりあう前に、私も三島さんに縁が出来、不思議な交流を交わしました。

 近づいた死の前に、このことを整理して書き残しておくべきかと考えています。

 百歳まで生きるなんて、三島さんがあの世で、「ワッハッハ!」と躰をゆすって笑っていることでしょう。

 三島さんは老人が大嫌いでした。特に老人の文学者を憎んでさえいました。私は三島さんと逢って喋りたいから死ぬ前にはペンを捨てましょう。すると命がよみがえり、心ならずも私は百二十歳くらいまで生き直すんじゃないでしょうか。こういうバカなことを考えるのが長寿のヒケツです。

週刊朝日  2021年9月10日号

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