それでも安倍氏は「結果を出している」と言い続けた。野党(民主党は民進党、立憲民主党などに党名変更)が批判すると、安倍氏は「民主党政権は悪夢だった」と切り返した。国会審議で安倍氏は、辻元清美氏ら野党議員に向かってヤジを飛ばし、対決姿勢をむき出しにした。

 安倍・菅政権では不祥事が相次いだ。森友問題では国有地が大幅に値引きされて払い下げられ、安倍氏は「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と大見えを切った。この発言が昭恵夫人の行動を記載した財務省の公文書の改ざんにつながった可能性が大きいが、真相は明らかにされていない。改ざんを求められた近畿財務局の職員が自殺に追い込まれたのに、安倍氏や財務省は遺族らへの説明責任を果たしていない。

■虚偽答弁を繰り返した

「桜を見る会」の疑惑も深刻だ。安倍氏の後援会員が大勢招待され、飲み食いに興じたのは公私混同の極みだった。後援会員を集めた「前夜祭」への資金提供について安倍氏は国会で否定し続けたが、東京地検特捜部の捜査で資金提供が発覚。安倍氏の秘書が立件された。安倍氏の国会答弁の虚偽は118回にのぼった。国権の最高機関である国会が政府をチェックするはずなのに、首相が野党議員をやじったり、虚偽答弁を繰り返したりした。公文書の改ざんを含めて安倍政権下で日本の民主主義は大きく傷つけられた。

 菅氏の長男が勤める衛星放送関連会社が、総務省幹部の接待を繰り返していたのは、まさに長期政権の「膿」である。

 その安倍・菅政権がコロナに見舞われた。感染は徐々に拡大。全国一斉休校やアベノマスクの配布などで政権は右往左往した。病床の逼迫が深刻になり、経済情勢も悪化。「結果」が出せなくなり、民主党批判も通じない。安倍氏は20年8月、持病の悪化を理由に退陣を表明。自民党総裁選の結果、官房長官だった菅氏が総裁・首相に就任した。

■国民を説得する術なし

 官房長官として人事権をテコに霞が関ににらみを利かせてきた菅氏。安倍氏の政策を引き継ぐと表明したが、政治姿勢はやや異なる。憲法改正に前向きの安倍氏に対し、菅氏はあまり興味がない。菅氏は携帯電話料金の引き下げといった実務的な政策や省庁の縦割り是正に関心があった。野党に対しても、菅氏は安倍氏のような対決姿勢一色ではない。菅氏は、野党議員に電話で「総理の仕事は大変です」とぼやくこともあったという。

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